蔵元通信2026年3月号
未来への挑戦
代表取締役社長 七代目 大井永吉
天寿酒造はどんなお酒を造っていますか?目指しているのは何処ですか?
当然明確になっているべき、経営の基本と言われるがこれが難しい。
私は「この地で出来る最高の酒を目指す」と社長になって四半世紀以上唱え続けてきました。最高の水・最高の米・最高の設備・最高の知識・最高の技術・最高の根気・最高の情熱・最高の蔵人・最高の杜氏。最高を沢山足す事が出来た酒蔵が最高の酒を造れるのか?最高のレポーターに取材されること・最高の料理屋で使われていること・最高に声の大きい人に酒が好かれたこと・酒が売れるきっかけは色々あると思います。 しかし、蔵元として目指す事を一言で言えないのが悩みではありましたが、その時に何をしたらよいのか迷ったことはあまり無かったように思います。 その時出来る最善を尽くしてきました。
社長就任時日本酒全体の売上が急速に減少し、自社も毎年五%ずつ落ちていく恐怖の中での低額でも脂汗の出る設備投資。旧二級酒九十%から特定名称比率五十%を目標に、地元での頒布会や楽しむ会の宣伝活動等を懸命に行うも遅々とした広がりへの焦燥。それでも進むべきは品質の向上と思いを定め、それぞれの工程の昔から良いと言われた事を検討・実施・検証・改善を繰り返して、一つ一つ積み上げて今の品質を作り上げてきました。(現在は特定名称八十八%) グループの製材会社の廃業と負債の返済、社員全員の再就職先斡旋までの処理。その国の日本人駐在員の購買しか期待できず、一度の旅費さえも何時回収できるか判らない不安な輸出活動。(今では海外でも頑張れば売れる事を我々が証明し皆知っている) 仲間と共に日本酒で初めての世界最大のアルコール飲料展示会への出展。(現地のお客様は皆中国の白酒だと思っていた「チノ?」「ノー!ジャパニーズ」からのスタート) 恩師の依頼とはいえ初めて挑戦する農大花酵母への不安と若い同志との共闘の為の花酵母研究会の設立。日本酒の味わいが広がることへの期待をするべきなのに、タイプの違いで色物扱いする守旧派への対応。酵母を変えれば味変も簡単なような事を言う人も今は出てきますが、酒の腐造前の全蔵蔵付き酵母時代と比較すると、七・九・十号の三つの協会酵母しかない閉塞感打破・精米歩合・生酛系・原料米種だけでない、味、香りの広がりへのきっかけには絶対に役立っているはずです。そして、昨年のクラマスター古酒部門での日本トップの審査員賞の受賞・全国より難関と言われる秋田県清酒品評会秋田県産米の部・吟醸酒の部両部門の知事賞それも首席のダブル受賞。。 有難いことです。その時自分の出来る最高を頑張ったのではあります。 でも、思いは「家族と共にする食卓で、うまい!と共に笑える場に寄り添えること」 どのタイプでも真剣に真剣に…でも最後は「自分がうまい!と思う酒」を生み出しております。
今後も「未来への挑戦!」挑戦は希望を求めているからこそと思います。
堅忍不抜
杜氏 一関 陽介
仕事を終えて家に帰りテレビを点けると、連日ミラノ・コルティナ五輪のハイライトがやっています。いろいろな種目がありますが、よくあの高いところからスキー板を履いてジャンプしたり、上手に氷の上を回転したりするものだなと感心してしまいます。凍った家の玄関を出るだけで滑って転びそうな私とは大違いです。想像を絶するような日頃の努力があってこそ掴み取れたであろう代表の座。さらに世界各国から一流選手が集まり、ほぼ一発勝負。体調管理やモチベーションの維持、運をも味方にしないと上位には行けない世界なのでしょう。尊敬しかありません。
さて一位が大好きな私ですが、品評会出品酒を搾り上げ最後の工程である火入れまで無事に終えることができた安心感から張り詰めていたものが消え、気持ちが緩んでいるとは思いませんが、どこか穏やかな気持ちで酒造りに臨んでいます。と言うのも、昨年度秋田県清酒品評会において二部門で首席をいただいたことが相当プレッシャーになっていたようで、正月明けは腸炎に罹り、出品酒を仕込んでから搾る日までの約一か月間はしっかり食べているつもりでも体重が少しずつ減ってしまうほどでした。(今は元に戻るどころか・・・笑)
出品酒の造りは一年に沢山ある訳ではないので当然緊張しますし、目指す方向性がこれで良いのだろうかと毎年悩み、やり直しはきかないので神経を使います。それだけでも毎年キツイのですが、絶対に良い酒を出品しなければならないというプレッシャーを過剰に自分で自分にかけていたようです。酒造りは精米から火入れまで製造メンバー全員で造り上げるもので、それぞれの責務はあるにせよ、それを一つにまとめて一本の酒にまとめる立場の自分が気持ちで負けるようではまだまだだなと思うのです。また、良い酒を造ろうと自分を奮い立たせることは良い事ですが、人から良い評価をされたいという気持ちからくるプレッシャーであったような気がしており非常に情けなく、そんなことを考える暇があれば堅実な作業の積み重ねが良い酒を生み、それが評価されるのだからまず仕事に没頭しろとあの時の自分に言ってやりたいところです。それでも肝心のお酒が経過も順調で、酒質も狙いに近いものになっていると冷静に自己評価しているので今回は許そうと思います。
三月になると品評会シーズンが始まります。今年度の酒がどのような評価をされるのか分かりませんが、どのような結果であれ得るものがまたそこにあるはずです。品評会のお酒についての話ばかりしてしまいましたが、それに限った話ではありません。オリンピック選手にはなれませんが、人に少しでも感動を与えられるものを造りたい。今年度の酒造りもゴールデンウィークまで続きます。頑張ります‼