蔵元通信2026年5月号
吟味して醸す
代表取締役社長 七代目 大井永吉
天寿の酒造りは4月13日に甑倒しをむかえ一段落を迎えました。季節の蔵人も退蔵し家路につき、今年の田植えに向かう準備を桜の花の下で始めた頃と思います。
昨年の米騒動は未だ終息の気配を見せず、飲食チェーン等の業務用市場価格は暴落とのうわさも聞こえます、しかし、飯米の価格は慌てて輸入された外米・備蓄米‥を合わせると相当ダブついているはずですが若干の値下がり程度で、高値で買い取りした物流が相当頑張り価格維持が出来ているのが不思議な感があります。結局2年後でなければ農家への最終清算価格の出ない農協通しの農家の為にはあまりならず、米を原料とする会社や国民には大被害で、米離れや生産量に貢献しない輸入により、益々厳しい状況を呼び込んでいる様に思います。
弊社では精撰の値上げを4月から実施。5月13日からその他商品の値上げを実施させていただきます。
米の値上がり分をそのまま転嫁せず可能な限り上げ幅を圧縮する努力の結果となります。ご寛容賜ります様よろしくお願いいたします。
吟醸とは清酒のスペックを表す言葉として、精米歩合60%以下(精米歩合=精米して残った方)で吟味して醸した清酒を言います。さらに大吟醸は50%以下となり、昨今はこの精米歩合のみが注目されがちです。大正期に今の精米機の方式が出来、現在の様な高精米歩合が実現できるようになりましたが、第一次吟醸ブームの40数年前でも40%以上精米しても米の成分は変わらず、35%精米の全国の金賞受賞率が高いので5%は杜氏の安心料などと言っておりました。現在は県産の酒米も複数新規開発されております。近年は低精米で雑味の少ない一穂積やぎんさんなどを使用した新商品開発に取り組み、吟醸とは違いリーズナブルな価格でも食中酒として楽しめる純米酒なども生み出しました。
ご存じのように清酒にはいろいろなタイプがあり、生・冷や・燗と好みがあります。精米歩合や値段が酒のヒエラルキーを決めるのではなく、如何に吟味して醸すかがその価値を決めるのではないでしょうか?
日本名門酒会本部長の飯田永介氏は昨年の「米騒動」を転機として「米の時代」が始まったと述べています。精米歩合の高低でランクが決まる事から脱却。酒蔵の思想・技術・品質などの〔独自性〕が問われる時代となり、‘92年級別廃止以来の選択基準の崩壊を迎えるだろうとの事。
精米歩合とは関係ない納得の味わいの創出。蔵開き・立春朝搾り・生酛・古酒(刻サケ)など、味わいの多様性や楽しみ方の可能性を皆様と共に作り上げて参りたいと思います。
会者定離
杜氏 一関 陽介
四月十三日に今期の仕込みが無事終了しました。ここからGWまでもろみ管理は続きますが、最後まで事故なく終われるように集中力を切らさず頑張っております。
この時期、「仕込みが終わるとゆっくりできますね」と良く言われますが、搾ったお酒の処理はもちろんありますし、道具の洗浄や蔵の清掃、機械整備など来期が始まったらすぐに安心して使える状態にしておく作業もあります。蔵人の仕事の中でも重要なことの一つですので気を抜くことはできません。それと並行して、今期の反省をまとめる大切な作業も残っています。少し休んでから・・・などと後回しにしていると、あっと言う間に時間は過ぎてしまい今年度の検証・次年度への検討をする時間が十分に取れないまま次年度に突入してしまうことになってしまいます。酒造りでの身体の疲れをとりながらも、頭は柔軟に使って、次への作戦を考える時間はしっかり取りたいと思います。
さて、春は別れの季節。弊社蔵人頭と酒母担当の二名が定年退職を迎えました。入社当時からお世話になり、さらに私が杜氏に就任してからは、未熟だった私をずっと傍で長年にわたり支えていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。この時が遠からず来るのだとずっと前から覚悟はしていましたが、現実となると非常に寂しく、これから全く不安がないかと言えば噓になります。また、私が入社した時に在籍していた先輩蔵人がこれで全員退職されたので、これからはリーダーシップだけではなく、会社の伝統や風習を受け継ぎ、次へと繋いでいかなければならない立ち位置になっていることに責任の重さを感じています。
ベテランが抜けた穴は大きいですが、退職された二人と共に酒造りをしてきた蔵人メンバーが二人から学んだことを活かして取り組めば決して埋められない穴ではないと思っています。その穴を埋めてこそ、二人への恩返しではないですが、安心してもらうことができるのではないかと思います。
別れがあれば出会いもありそうですが、残念ながら今のところは無さそうです。日本酒が好き・日本酒を造ってみたい・・・そんな方がいらっしゃいましたら是非ご連絡ください。